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最高裁判所第二小法廷 昭和38年(オ)1065号 判決 1965年8月02日

上告人

橋本章

右訴訟代理人弁護士

岡井藤志郎

被上告人

愛媛県知事

久松定武

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岡井藤志郎の上告理由第一点の一および二の(一)について。

論旨は、本件買収処分の対象とされた上告人の所有地は、地上に上告人所有の蜜柑樹の生立している果樹園であり、かかる地上に土地所有者の所有に属する物件の存する土地は、自作農創設特別措置法(以下自創法と称する。)にいう農地にあたらず、同法によつてはかかる土地の買収は許されない旨を主張したのに対し、原判決は、これを自創法により買収できるのは土地だけであつて地上物件に及ばないとする趣旨の主張と誤解して、事実摘示として掲げ、その理由において、これに対応する説示をして上告人の主張を排斥したのは、結局その主張に対する判断を遺脱し、かつ自創法の解釈適用を誤つたものというにある。

しかし、本件記録に徴すれば、原審において上告人の主張したところは、本件土地の地上蜜柑樹は、土地以外の物であり、登記ができるほどの独立の権利の客体であるのにかかわらず、自創法にはかかる土地とは別物である地上物件を買収しうる規定を欠くから、かかる物件の存する土地についてなされた本件買収は違法であり無効であるという趣旨であることが認められる(上告人の原審における昭和三二年八月九日陳述同日付準備書面一の(2)、同三四年六月一九日陳述同日付準備書面一参照)。してみると、この主張についての原判決の事実摘示における記述は、右上告人の主張の趣旨にたがうものではなく、所論のように、地上物件たる蜜柑樹の買収のみを違法無効とする趣旨の主張と解したものとは認めがたい。そして原判決はその理由において、上告人の主張に対して第一審判決の判示を引用するほか、上記の点については、本件土地の果樹を土地から分離独立した権利の客体と認めることはできず、土地所有権の移転と運命をともにすべきものと断じ、従つてかかる果樹を土地から分離した権利の客体であることを前提とする上告人の主張はすべて理由がない旨を判示しているのである。されば、これを所論のように、上告人の主張の誤解に基づく判断の遺脱あるものとはなしがたい。

論旨は、果樹園は自創法にいう農地にあたらない旨を主張するが、同法にいう農地とは「耕作の目的に供される土地」(同法二条参照)であり、耕作とは土地に労資を加え、肥培管理を行なつて作物を栽培することをいい、その作物は穀類蔬菜類にとどまらず、花卉、桑、茶、たばこ、梨、桃、りんご等の植物を広く含み、それが林業の対象となるようなものでないかぎり、永年生の植物でも妨げないと解すべきであるから、本件果樹園のごときも、同法にいう農地に含まれないとする理由はないのである。論旨は、地上に土地所有者の果樹ある土地は小作の対象とならず、従つてまた農地買収の対象とならないものと論ずるが、かかる土地についても果実の収穫を目的として小作関係を設定しえない理由はなく、また本件にみるような自創法三条五項二号該当の場合においても、買収の対象となりうるわけである。論旨の自創法一条、二条一項を根拠とする論は到底首肯しがたい。

論旨はさらに、自創法の買収は政府による一方的な所有権剥奪行為であるから、法律に明確な規定ある場合にかぎり許さるべきものであるのにかかわらず、同法には果樹のごとき地上物件ある土地の買収を予定したと認めるに足りる特別規定のないことをあげて、その主張の根拠とするが、原判決の判示するように、本件果樹は土地から分離独立した権利の客体ではなく、地盤たる土地の構成部分として一個の所有権の客体と認めるのを相当とし、従つて自創法による買収においても、特別の規定のない以上、土地の買収により当然併せて買収されるものと解すべきである(昭和三六年三月一四日第三小法廷判決、民集一五巻三号三九六頁参照)。なお論旨は、自創法六条が農地対価を土地以外のものについて定めていないことをもつて、右のごとき買収を許されないものと主張するが、同条は必らずしも経済価値ある地上多年生作物等を相当に評価して正当な補償額としての買収対価を算定することを否定するものではなく、現に本件においては、原判決の引用する第一審判決によれば、買収対価は、もし素地だけであるとすれば買収対価は八〇〇円六四銭のところ、蜜柑樹を含めて一三、〇三六円一八銭と算定された旨を判示しているのである。要するに、本論点について、論旨はいずれも理由がないというべきである。

同第一点の二の(二)および(三)の(イ)について。

論旨は、本件土地の売渡の相手方を訴外戎井類太郎としたことをもつて、買収権の乱用とする上告人の主張を排斥した原判決の判断を失当といい、また原判決が上告人と右戎井との間の本件果実園の耕作関係を請負あるいはこれに類似した契約と判定し、雇傭と認めなかつたのを非難するが、これらの点についての原判決の判断は、その挙示する証拠に基づき認められる事実のもとにおいては、いずれも正当であり、論旨は採用しがたい。

同第一点の二の(三)の(ロ)ないし(ニ)について。

論旨は、原判決が、本件認定買収は自創法三条一項二号、三号により上告人が在村地主として許される小作地保有限度を侵した違法があるとの主張を採用せず、また農地買収は、右小作地保有限度を侵さない範囲で、認定買収は小作地買収よりも後に、地上物件ある農地はそれのない農地よりも後に買収すべきであるのにかかわらず、本件買収はかような順序範囲を無視した違法があるとする主張を排斥したのを非難するが、自創法三条五項二号による本件買収は、同条一項二号三号所定の保有面積の制限に服するものではないとする原判決の判断は相当であり、また同法による農地買収に所論のような順序の存することも認めがたい。論旨は理由がない。

同第一点の二の(四)および(五)について。

論旨は、自創法による農地買収は公共のためのものでなく、憲法二九条三項に違反するというにあるが、右買収は、自創法一条に掲げる公共の利益に奉仕する目的をもつて実施されたものであり、強制買上された農地がさらに特定の小作人に売渡されても、買収の目的自体の公共のためであることに変りはないのである。当裁判所大法廷はさきに同法による農地の買収対価を憲法二九条三項にたがうところはない旨判示し、右は当然この趣旨を前提としたものであることはいうまでもないところであるから、右大法廷の判決の趣旨に徴しこれを肯認することができる(昭和二八年一二月二三日大法廷判決、民集七巻一二号一五二三頁、同二九年一一月一〇日大法廷判決、民集八巻一一号二〇三四頁参照)。論旨の理由のないことは明らかである。

同第二点について。

論旨は上告理由第一点において指摘した原判決の判示の過誤については、また理由不備の違法もあるというが、原判決に所論の瑕疵は認めがたく、論旨は採用するに由がない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

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